土石流について
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土石流とは

注 沖積錐(ちゅうせきすい)とは,扇状地の頂部付近
にある急傾斜のことで,「土石流扇状地」とも言います。
  • 土石流とは,豪雨あるいは地震時などに渓流や山腹斜面等の堆積物が,不安定化し,濁流として流れ下る現象です。
  • 流下過程で更に堆積物,基盤岩の一部,渓岸の樹木などを根こそぎ巻き込み,大きな礫や流木など粒径の大きい物質が先端に集まった高速の流れとなります。
  • 大量に降った雨水や渓流の沢水が潤滑剤になるので,岩石だけに比べて流動性が格段に増すため,時速数十キロメートルと言った高速で,渓流を流れ下ります。
  • このため,発生を感じた(検知した)時点で逃げようと思っても,逃げ切れるものでは無いでしょう
  • 礫などの粒径の大きい成分は,渓谷の出口付近で「沖積錐」として堆積します。 粘土分などを含む濁流はさらに流下して,下流の河川に合流します。
  • そしてその流下域や堆積域に住家があれば,家屋内への土砂や濁水の流入だけでなく,家屋の破壊,流出など人命に係る土砂災害が発生します。
  • 土石流の流速やボリュームは流下距離が長く,河床堆積物の量が多く,流域面積が大きいほど大きくなる可能性が高いので,土石流が山頂付近の渓流から流下するケースでは,破壊力や到達距離が大きく,要注意な渓流と言えます。

渓谷の出口付近で発生することの多い沖積錐のサンプルです。

沖積錐のサンプル

  • 多量の砂利を積んだ盛土が,度重なる大雨による谷頭浸食と河谷浸食により流出し,沖積錐が形成されたものです(トリガーとなる斜面崩壊は無かったので,必ずしも適切な例では無いかもしれません)。
  • 表面に水が流れています。 こうした流路は大雨のたびにランダムにコースを変えるので,結果的に同心円状の等高線を持つ沖積錐が形成されます。
  • 土石流でも同じように,谷口部での浸透堆積によって沖積錐=土石流扇状地が形成されます。
土石流の繰り返しでできた土地 : 長野県高森町出砂原(ださら)

(左)出典:松島 信幸, かわらんべ No.35, 天竜川総合学習館            (右)国土地理院地図タイル
  • 「三六災害」は,昭和36年6月に長野県伊那谷で発生した梅雨による豪雨災害です。
  • 天竜川とその支流の洪水,斜面崩壊と土石流に大規模な地すべりも発生しました。 その時の記録は「三六災害50年実行委員会」の作成したパネルに詳しく掲載されています。 是非,ご一読ください。
  • 上図(左)は,松島信幸氏(伊那谷自然友の会)が作成した,出砂原地区で発生した土石流の歴史です。 6回の土石流が繰り返されました。
  • このように,土石流は同じ渓流で何回も繰り返し発生することがわかります。
  • 土石流発生の間隔が長いと,寺田寅彦の言とされる「天災は忘れられた頃にやってくる」となって,後の世代には引き継がれませんでした。
  • これからは,上記のような記録が作成され,インターネットでの閲覧も出来るようになるので,自分の身の周りの自然状態を注意深く観察して,地盤のリスクをいち早く理解し,異常時にはいち早くそれを避けるように心がけましょう。
土石流の例(鹿児島県出水市針原土石流)

写真提供:大島 洋志氏 国際航業(株)  グラフ作成:事務局
  • 発 生: 1997年7月10日
  • 雨 量: 発災までの総雨量401mm,最大時間雨量62mm
  • 深層崩壊地点の地質: 風化安山岩と凝灰角礫岩(基盤)
  • 深層崩壊の規模: 崩壊幅80m,長さ190m,最大深30m [上図のA点(頭頂部)~B点]
  • 崩壊土砂量: 13万m3
  • 被 害: 死者21名,住家被害29棟
  • 沖積錐(土石流扇状地)の形成範囲: C点付近から水平距離の300m前後まで
 ※ 針原土石流について,当機構が独自に編集した記事は こちらにあります
森林と土石流の関連について
  • 2014年8月に発生した広島の土石流災害においては,土石と共に大量の流木が流下し,被害の増大あるいは,復旧や行方不明者の捜索を妨げる原因ともなりました。
  • 土石流発生の危険のある流路沿いの樹林については,たとえば
     ・根系の深い樹種を選定して植林を行うする
     ・根系が深くなるような育成法を採用する
    といった,土石流が発生した際にも浸食されにくい“渓畔林作り”が必要では無いでしょうか。
  • 地域の防災問題として,山腹斜面の樹木の状況を知ることは重要で,防災対策を進めるうえでも,森林管理も含んだ総合的な検討が望まれます。
土石流に関する主な参考文献,資料及び土石流災害関連ページ(事務局作成)