1991年4月 宇都宮市・瓦作地区 大谷石採取場跡地陥没
大谷石採取場及び周辺の三次元地形イメージ

大谷石は「奇岩群」として地上に存在するものの他に,平地の氾濫原の下にも存在します。
1991年4月に発生した「瓦作地区」の陥没は,まさしく平地の地下に掘削された採取場の天井(天端)が陥没したのです。
1991年4月29日に「瓦作地区」で発生した陥没

1991年4月29日に「瓦作地区」で発生した,大谷石採取場跡地の陥没です。 現在は埋め戻しが完了しています。
・1991年4月29日,栃木県宇都宮市大谷町瓦作地区の大谷石採取場跡地で,大規模な陥没事故が発生しました(下記名称の(E)~(G))。
 採取場を管轄する栃木県では,面積が60m×100m(6000平方メートル),陥没深さは約20mと発表しています。
・栃木県宇都宮市の大谷地区を中心として分布する「大谷層」は,通称「大谷石」と呼ばれ,新第三紀中新世の流紋岩質~軽石質凝灰岩です。
 比較的空隙が多く加工し易く,耐火性もあるために,主に建設用資材として多量に採取されてきました。
大谷石の陥没について

大谷石採取場跡地では,1989年2月から1991年4月にかけて,(A)~(G)の「陥没」,「拡大」や「沈下」が発生しました。
(B)と(C)の陥没は,(A)の陥没が拡大したものです。
(E)~(G)については,同時に発生したものですが,深さによって「陥没】と「沈下】の区別が付けられています。

大谷石は,新第三紀の「軽石質凝灰岩」ですが,約7度東落ちの傾斜を持っています。
大谷地区の西側では,岩山(丘)が大谷石層となっていても,東側では平地の下に大谷石層が分布するようになります。

・大谷地区の西側では,大谷石層が岩山(丘)を構成しているので,地表から掘り下げる「露天採取方式」,あるいは横坑を使用する「横坑・残柱式坑内採取方式」のいずれかが採用できます。
・一方東側では,大谷石層は平地の地下に存在するので,大谷石層まで「立坑(竪坑)」を掘削し,そこから掘り下げる「立坑・残柱式坑内採取方式」が採用されます。大谷石層の上位は,軟弱な表土層や軟岩なので,採取にあたっては,陥没を防止するための対策が必要となります。

・坑内採取方式の場合,落盤の危険性があるので,大きな空洞を掘削することはできません。
・従って,「残柱」と呼ばれる柱を掘り残して天端を支えることになりますが,残柱の規模,大谷石層自体の圧縮強度や亀裂などによって,天端を支えきれなくなって陥没が発生することがあるのです(下記参照)。

1989年と1990年に発生した陥没

(C)は,1989年3月18日に「坂本地区」で発生した陥没ですが,それに先立つ2月10日に(A)の陥没が発生しました。
(D)は,1990年3月29日に「坂本地区」で発生した陥没です。 オタマジャクシ状の形をした陥没孔でした。
【参考】大谷石採取場跡地の変状例

(左上)横坑採取方式による採取場跡地。 天井(天端)の一部が崩落しているので,落盤の危険性が高いと考えられました。
(右上)・(右下)2011年3月に発生した「東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)」による揺れにより,天井(天端)が崩落しました。
(左下)採取場と採取場が隣接しているケースで,壁になっている部分に大きな亀裂が入っています。
水平方向のズレも存在するので,安全性が危惧される跡地と考えます。
陥没の監視について

・1989年発生の(A)~(C)陥没を契機として,採取場(跡地)を所管する栃木県は,住民の安全を守るための監視システムを設置しました。
・採取場跡地の周辺に100個以上の「地震計」を設置し,陥没の予兆である「亀裂性振動」と「落下衝撃振動」という2種類の振動を検知し,波形分析と発生位置の推定などにより,陥没の危険性を予測する仕組みです。


(左)地震計の設置概況と,検知する2種類の振動。
(中)瓦作地区陥没の,約2か月前から5日前まで,落石等の振動が発生した位置図です。 陥没地の北側に集中して,落石が発生しています。
(右)同じく陥没発生の直前4日間に,落石等の振動が発生した位置図です。南側の外周に沿って,落石が発生しています。
これらから,1991年4月に発生した瓦作地区の陥没については,その範囲があらかじめ予測されていました。
参考情報など

【参考情報】
 ・(公財)大谷地域整備公社 >  大谷石採取場跡地観測システム
   ※現在運用中の観測システム(概要)と共に,直近の観測結果が公開されています。
 ・日本の地質百選 > 大谷石(栃木)