ものすごい数の蟇蛙(ひきがえる)が 類型:その他(動物)
  ひき岩群(ひきいわぐん) 和歌山県田辺市
謂われ,特徴,エピソード等

 「ひき岩群」は,新第三系田辺層群白浜層に形成された小さな「ケスタ」で,礫岩・砂岩の地層が天を仰ぐ大きなカエルの群れを形づくっています。
 森の中から今にも飛び上がるようなカエルの群れは,躍動感に溢れています。
 ケスタとは,左右で非対称の勾配を持つ地形のことで,その成因としては地質の浸食に対する抵抗力の違いや,層理面の方向による安定勾配の違いなどが考えられます。

 ひき岩群の中央部に位置する蟾蜍岩(せんじょいわ)は,岩屋観音堂の入口にそびえる高さ45m,周りが約60mに達する巨岩ですが,見た目は可愛いひき岩です。

 ひき岩群は,昭和33年に和歌山県の天然記念物に指定され,2015年9月には,吉野熊野国立公園へ編入されました。

 ひき岩群のカエルの頂からは田辺湾が一望でき,ひき岩群の地形・地質,気象条件に適応した植生とともに素晴らしい自然景観が形成されています。

 ひき岩群の北に隣接している,多くの巨礫を含む田辺層群の基底礫岩層は,高さ約50mの絶壁が120mにわたって続いており,2つの特異な岩山を形成しています。
 地域のひとから,親しみを込めて大天井(西天井,東天井)とよばれています。

地形・地質の概要

☆地形
 ひき岩群を含むこの地域は,標高80~100mの丘陵地です。
 この丘陵の中央部の白浜層分布域では,地層が南西に緩く傾斜し,礫岩・砂岩が相対的に硬い岩に,泥質岩が軟かい岩となっているために,長い間の差別的な風化・浸食作用の結果,小規模なケスタがつくられています。
 風化・浸食に強い礫岩・砂岩が,ヒキガエルの群れのような景観を見せているのです。

☆地質
 ひき岩群と大天井は,中新統「田辺層群」の地層からできています。
 田辺層群(前弧海盆堆積体)は,北側では四万十付加体を傾斜不整合で覆う一方,南側は動鳴気峡断層が境界となっているため,四万十付加体の地層に取り囲まれて分布しています。
 この地域には,田辺層群の「朝来層」と「白浜層」の下部が分布しています。
 朝来層は,下位から巨礫を含む砂基質の礫岩層(基底礫岩層),泥基質の礫岩層,泥岩層から構成されています。
 白浜層はおもに1~数mに成層する礫岩,砂岩から構成され,泥岩,泥岩優勢の砂岩泥岩互層が挟在します。 礫岩は基質が粗粒砂で,礫は細礫~中礫の亜円礫ないし円礫で,結晶片岩が多く含まれています。 砂岩は石英砂に富む極粗粒ないし粗粒砂から構成されています。
 田辺層群は,北西-南東走向で南西に30°程度で傾斜しています。


引き岩群の近景

大坊からの引き岩群の遠景。 田辺湾を望む。
奇岩近傍の三次元地形イメージ

「ひき岩群第一展望台」上空から,「岩屋観音」の方角を眺めたという,三次元地形イメージです。
平面図ではわかりづらかった「ケスタ」の特徴が翌出ています。
周辺のジオサイトや観光地

☆ジオサイト
 ★天神崎:ナショナルトラスト運動の先駆けとして一躍その名を知られるようになった「天神崎」は,田辺湾の北側に突き出た岬で,日和山を中心とする緑豊かな20haの丘陵部と干潮時に顔を出す21haの平らな岩礁で形成されています(出典:リンク先)。
 ★奇絶峡:田辺市の会津川の上流にある渓谷で,春の新緑や桜,夏の涼しげな不動滝,秋には紅葉と,四季折々の渓谷美をみることができます。
ユニークな形をした大小無数の奇岩がいたるところに点在しており,中でも不動(赤城)の滝のはるか上方,一枚岩に刻まれている堂本画伯の原画「磨崖三尊大石仏」が見事です。(出典:リンク先)。

☆観光地
 ★ひき岩群国民休養地:中心にあるふるさと自然公園センターでは,ひき岩群の自然のほかに,田辺の自然や仕組みを写真・パネル・標本などでわかりやすく紹介しています。
 ★白浜温泉:古くから湯治場として栄えた白浜には,長い歴史をもつ文化財や施設が点在し,その見どころ,歩きどころは何度訪れても新鮮は発見と驚きに溢れています(出典:リンク先)。
 ★龍神温泉郷:龍神温泉は,高野龍神国定公園,日高川沿いに位置する温泉です。 島根県の湯の川温泉,群馬県の川中温泉とならび,日本三美人の湯として有名です。 また近郊には,丹生ヤマセミ温泉,釜ノ崎温泉,小又川温泉と下柳瀬温泉があります。

交通概要(公開時の情報)
  • 鉄 道: JR紀勢本線「紀伊田辺駅」で下車。 路線バスは運行本数が少ないので,タクシーを利用してください。
  • 自動車: 阪和自動車道を「南紀田辺IC」で降り,国道42号(田辺バイパス)を白浜方面へ曲がり,すぐの「稲成ランプ」で県道208号に左折します。
       岩屋観音先の交差点を県道35号に右折し,約1kmでひき岩群国民休養地に到着します。
記事,引用情報,お断りなど
 

【記事】
 世界的に有名な博物学者南方熊楠は,明治37年に和歌山県田辺に定住してからよくひき岩群を訪れ,植物や粘菌の観察に明け暮れていました。 彼の残した標本の中には,当時の稲成村産の植物標本がたくさん残っています。 「手頃な採集地だし,いいものが見つかるし」といって,熱心に通っていたとのことでした。
 ひき岩群一帯は乾燥した特異な岩山のように見えますが,その谷間には岩壁がいたる所に存在し,湿地や滝もあります。 この複雑な環境に適応した多くの貴重な植物がみられるのが特徴的で,たとえば,イブキシモツケ(和歌山県下でも珍しいバラ科の低木),キキョウラン(暖地の海岸を好む熱帯系のユリ科植物),キイジョロウホトトギス(紀伊半島の固有種で,湿った岩壁に着生するユリ科の植物)などのめずらしい植物が見られます。
 ひき岩群と大天井を望む大坊地区は,水はけの良い砂岩層や砂岩泥岩互層(音無川付加ーシークエンス)となっており,その南斜面を利用して柑橘(主に温州みかん)の栽培が盛んで,おいしいミカンの産地として有名です。 近接する音無川付加シークエンスの瓜谷層(泥岩層)の分布域は,南部梅林(みなべ町)や田辺梅林(田辺市)など,梅の大産地になっています。
 ひき岩群の一角(田川)には,「押分岩」と呼ばれる直径20mの対をなす巨岩があります。 この岩は,田辺層群白浜層の砂岩・礫岩から構成されています。 この二つの巨岩は一刀両断に割かれたとされ,秋葉神社の参道になっており,中芳養の八幡神社~田川の押分け岩~岩屋観音~救馬渓観音に通じる小栗海道があると言われています。
 自然が豊かなひき岩群は,人気のハイキングコースで,各岩にはトンピンタンなどの愛称が付けられて親しまれ,四季を通じて動植物の観察場になっています。

【引用情報】
 ・国土地理院 > 地理院タイル(地形図,5m・10mDEM)  国土地理院利用規約

【お断り】
 ・奇岩の地図は「奇岩近傍の三次元地形イメージ」に変更しました。地形図については,地図検索のページをご覧ください。

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