長野県・岐阜県:奥穂高岳と涸沢カール(氷河地形)
地形の特徴

氷河地形,圏谷,カール,U字谷,侵食地形,水食,日本百名山

地形と地質の三次元イメージ :
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  • 飛騨山脈(北アルプス)の主峰と言えば,槍ヶ岳を抑えての「奥穂高岳(3,190m)」でしょうか。
  • 「槍ヶ岳」を含む「穂高連峰」は,更新世のカラブリアン期(約100万年前頃)に,「槍穂カルデラ」を伴う巨大噴火による「穂高安山岩類(Dp,Wm)」と,地中深くでゆっくりと冷えて固まった「滝谷花崗閃緑岩(Gdt,Gt)」の複合火山体で構成されています。
  • 地形的にみた場合,火山活動が停止した後の「最終氷期」の間中,継続したと思われる「氷河による侵食(氷食)」により形成された地形(圏谷やU字谷など)が際立っていて,この付近一帯はかつて火山であった,ということを示す兆候を感じ取ることはほぼ不可能です(露頭は別です)。
  • 奥穂高岳は,北の槍ヶ岳から延びてきて涸沢岳,北穂高岳,奥穂高岳,ジャンダルムを経由して南西の焼岳へと連なる主稜と,山頂から南東方向の前穂高岳に続く「吊尾根」で構成されています。
  • 北に伸びる主稜と吊尾根との間に拡がる「涸沢(からさわ)」には巨大な「涸沢カール(圏谷)」が存在しています。
    具体的には,前穂高岳北尾根-前穂高岳-吊尾根-奥穂高岳-涸沢岳-北穂高岳-無名尾根に囲まれている,最大直径が約2kmという,日本で最大規模の氷河カールです。
  • 注 図中の「赤点」は,カールの中心を示したつもりですが,プロット上の誤差があり得るので,目安程度とご承知ください。
【現場写真】 岳沢

大正池付近からの岳沢。奥穂高岳の山頂は雲の中ですが,残雪のあるカール(圏谷)で,山頂の場所がある程度わかります。
地形と地質の三次元イメージ : 涸沢カール
  • 「岩田,2003」によると,奥穂高岳とその周辺の場合,標高の低い場所にあるカールは約10万年から約6万年までの間の「横尾期」に形成され,尾根直下など標高の高い場所(赤点など)は,約4万年前以降約1万年前までの「涸沢期」に形成された,と考えられています。
  • 上図で例示すると,文字「J(涸沢)」の下流側にある微高地は涸沢期の「モレーン」で,その下流の「U字地形」は横尾期のカール地形と思われます。
  • 登山者の間で「涸沢カール」と称されているカールは,文字Jの下流では1つの「U字谷」となりますが,上流では4つないし5つの幅広で浅い谷の集合体となります。恐らく,かつては切り立った尾根に仕切られていたのかもしれませんが,氷河による侵食活動によって,尾根は削られて低くなってしまったのかもしれません(仮説です)。
  • ザイテングラード(Seitengrat)とは,ドイツ語で「側方の尾根」を表わす一般(登山)用語です。
    しかし,日本では涸沢から奥穂高岳へ続く岩稜に作られた登山道を指します。
地形の三次元イメージ : 奥穂高岳西斜面
  • 南北に主稜が延びている山脈の場合,主稜の西側は,冬季に激しい季節風が吹き付ける風上側になります。
    強風のために雪は吹き飛ばされて,積雪量は大きくありません。
  • 岩盤は外気に直接触れるために岩盤の亀裂水は凍結・膨張します。 亀裂は広がることで,岩盤は細片化して岩屑へと変わります。
    更に,岩屑は強風に吹き飛ばされて凹地を埋めるので,最終的には「周氷河性平滑斜面」になることが一般的です。
  • ところが,奥穂高岳の西側斜面は,そうなっていません。
    「白出沢(しらだしさわ)」や「滝谷(たきだに)」など,極めて急峻な谷が山頂や尾根まで入り込んでいて,圏谷底など一部を除いて平滑斜面は殆ど存在しません。
  • 飛騨山脈(北アルプス)は,1年間に3mm程度の隆起が観測されています(西村,2008)。
    山体が隆起することにより,河川の勾配が増し侵食力(水食)が増加しますが,奥穂高岳周辺では「周氷河作用」による平滑化よりも侵食力の方が大きいため,急峻な谷が形成されたのかもしれません(仮説です)。
奥穂高岳

この登山ルートは,現在の一般ルートを示しており,深田久弥の登山ルートとは異なります。
  • 深田久弥が奥穂高岳に登頂するためのルートはわかっていないため,最もボヒュラーな涸沢ルートをトレースしてみました。 登山口は,徳沢園です。
  • 地形図上の標高差は1,628mですが,途中のアップダウンのため約1,880m登る必要があります。
  • 同じく歩行距離は約11.6kmとなり,登頂に要する時間は健脚者でも7時間~8時間はかかるでしょう。
【記事・引用情報と参考情報】

【記事】

  • 「穂高安山岩類」の年代について,1990年発行の5万分の1 地質図幅『上高地』では,「古第三紀の末期」と表記されていますが,最新の20万分の1 シームレス地質図では「第四紀・更新世・カラブリアン期」と劇的に新しくなりました。
  • 同様に,「滝谷花崗閃緑岩」の年代も,「古第三紀と新第三紀」の中間から「更新世・ジェラシアン期~カラブリアン期」へと変更されました。
  • この理由は,これらの年代が『上高地』の発行後に新たな発見があって,これらの地質年代が更新されたからです。
  • 「涸沢カール」は,稜線の東側に存在します。 冬期間,季節風の風下側になるため,積雪が多く,谷が深いために夏になっても中々溶けません。
  • 氷河期においてもこの傾向は変わらなかったと考えられており,積雪⇒圧縮⇒氷⇒万年氷⇒重力で移動,という流れで氷河が形成されました(単純化)。
  • 日本の場合,氷河カールの殆どが山頂や稜線の東側に存在する理由です。

【引用情報】

【参考情報】

【お断り】