特殊地下壕の対策工事について
地下壕の崩壊(その1) 地下壕の崩壊(その2) 地下壕の内部状況 地下壕の対策工事  
1.対策工事の流れ
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Step 1: 対象の特殊地下壕がどのようにして掘削されたか,戦中から戦後の資料を収集して分析します。

Step 2: 地下壕の周辺と内部について,地質技術者が踏査を行います。
  壕内では,天盤や側壁の崩壊に注意し,壕真上の地表面について陥没や窪地などの変状に注意します。
  必要に応じて,調査器具を使用して,天盤や側壁などの強さを測定します。

Step 3: 地下壕がどのような形をしているか,どの程度の容積があるかを,測量士が測量します。

Step 4: 以上の調査・測量の結果から,地下壕の安定性を診断し,対策の必要性について判断します。

Step 5: 地下壕の形状と地上の利用状況(住宅地,畑地か山林など)から,作業が安全でかつ周辺環境に
  配慮した対策工事を検討して決定します。

Step 6: 施工業者を決める入札に必要な設計書(施工手順書)と設計図面を作成します。

Step 7: 施工業者は,契約時の提示された設計書をベースにして施工計画を立案し,それに基づいて
  対策工事を実施します。

注 Step 1~Step 4 は,地質調査業務,Step 5とStep 6 は,設計コンサルタント業務,
  Step 7 は,工事に分類されます。

2. 地下壕調査
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Step 1 [資料調査]: 戦後間もない頃から最近に掛けて作成された地下壕に関する資料を収集して分析します。
  これは,地下壕の位置や規模を推定する時に有効な方法です。
  また,付近の住民に対する聞き取り調査も行いますが,戦後70年近くなってきたため,この作業はかなり難しくなってきました。
  ※ 地上戦が行われた沖縄県では,地下壕の中で多くの県民と兵士が死亡しました。 戦後,遺骨と遺品の収集と調査が行われ資料が残っています。

Step 2 [地質踏査]: 地下壕の内部については,天盤や側壁に崩壊が無いか,地下水が流入していないか,などに留意しながら地質踏査を行います。
  地上については,陥没や窪地の有無に留意して踏査を行います。 これらの結果は,その地下壕の安定性を診断する際に重要な基礎資料となります。
  地下壕の中に水が溜まっていると,後述するエアモルタルをそのまま使用することができないので,水をくみ出すといった先行作業が必要になります。

Step 3 [壕内測量]: 地下壕がどこにあるのか,またその容積がどの程度であるかを測量によって明らかにします。

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壕内測量結果の例

① 詳細な地形図が存在する場合には,その地形図上に測量結果をオーバーレイ
 (重ね画き)します。
 地形図がない場合は,新たに平板測量(地形測量)を行う必要があるでしょう。
 重ね画きした平面図は,施工計画の立案のほか,周辺住民に対する工事の説明用
 図面としても使用できます。

② 地下壕の容積は,対策工事を「充てん工」に決定した場合,埋め戻しに使用する
 材料とその投入量を推定する際に必要となります。
 ※ 筆者の経験では,測量した容積に対し平均10%程度の増量が必要になります。

③ 測量では平面図のほか,地下壕の「横断図」と「縦断図」も作成します。
 ・横断図: 地下壕の坑口や内部に「隔壁」を設置する場合に利用します
 ・縦断図: 充てん材料を投入する管(投入管)と,空気を抜く管(排気管)を
   設置する場所の決定に利用します。

3. 地下壕の対策工事の概要。 エアモルタルを使用する充てん工事を例にして
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 ① 地下壕内部の隅々まで埋め戻すには,水のように流動しやすい液体状の材料が最も適しています。
  エアモルタル(気泡モルタル)は,このような性質を持っているため,空洞の充てん材料として最も多く利用されています。

 ② エアモルタルの充てんは,直径50mmの塩ビ管(または相当する管)があれば可能です。
  その設置方法は,図に示したように「坑口から配管を伸ばす方法」あるいは「ボーリングして配管する方法」が採用されます。

 ③ 崩壊などにより天盤が高くなっているところでは,天盤すれすれまでエアモルタルを投入する必要があります。
  イメージに記載したように,その場所は「縦断図」により決定します。
  ボーリング孔を使用する場合では,地下壕の形状を正確に測量していないと,狙ったところに穴を開けることが出来ません。

 ④ エアモルタルを投入する際は,壕内の空気を抜く必要があります。
  排気孔の位置は,天盤が最も高くなっている所に設定します。

 ⑤ 一度に投入する高さは1m以内が望ましい,とされています。
  写真の上の列は,下段を施工してある程度固化した後,上段を施工した事例です。

4. エアモルタルによる充てん工事の概要
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 ① 通常,エアモルタルの元になるモルタルは,セメント 1 に対して 砂 3 の割合で作成することが多いようです。

 ② 地下壕補充填するために使用するモルタルは,コンクリート工場からアジテータ車(通称 生コン車)で現場まで運びます(購入モルタル)。
 注 壕の容積が大きい場合には,現場にプラントを設置してモルタルを作る方法もありますが,「流動化処理土」など,別の充てん材料の方が安価です。

 ③ 現場ではコンプレッサーで高圧空気を作成し,「発泡剤」と一緒に気泡発生装置に送り,アジテータ車の中で発泡させます。
  通常は,容積で約2倍にします。

 ④ できあがったエアモルタルは,スクイーズポンプ車により,地下壕内に設置された投入管まで圧送します。
  流量計により正確な投入量を測定します。

 ⑤ エアモルタルの強さ(一軸圧縮強度)は,陥没を防止する目的では最低300kN/m2 程度あれば十分ですが,圧送中に材料が空気とモルタルに分離する,
  などの施工リスクが高くなるので,1000kN/m2 程度を目標として作成する方がよいと思います。
  この時の比重は約1.0,すなわち水とほぼ同じになります。

5. 地下壕対策に関する参考情報

 ① 中田文雄 : 特殊地下壕対策事業とその実施手順について,情報地質 第18巻 第2号 104-107頁,2007年

 ② 一般社団法人充填技術協会

 ③ エースコン工業株式会社 エアミルク・エアーモルタルFCB工法資料

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